AV女優や風俗嬢など性産業に携わる人々を取材し、介護事業の経営者として辛酸を嘗めた経験も持つ中村淳彦と、セックスワークのなかでも最底辺の売春ワークに陥っている女性を取材し、自身も脳梗塞に倒れて貧困当事者の苦しさを痛感した鈴木大介。
いま最も「地獄」を見てきた二人が目にした、貧困に苦しむ人々の絶望的な現状とは。性産業の問題から、教育・福祉・介護の悲惨な状況、そして日本社会の構造的問題にいたるまで、縦横無尽に語り尽くす。
この書籍は、『最貧困女子』や『ギャングース』監修で知られる鈴木大介氏と、『中年童貞』の中村敦彦氏の対談本です。
現実の厳しさを突きつけてくれる本は好きです。漫画や小説は最後に落としどころを見つけて解決しますが、実際の出来事では出口のない迷路の方がたくさんあります。普通に生活していると見られないようなリアルな世界を覗くことができます。
読んだ後ももやもやした感が残りますが、落とし所を探してグッドエンドで終わるよりもこの方が好きです。
生々しい現実を知りたいのであれば、テレビや新聞社の大手マスコミ記者が書く記事よりも、彼らが書く記事を読んだ方がいいです。大手メディアを通してしまうと、あまりにも生々しい内容のためフィルターを通してしか伝わらないということが多々あります。
・貧困はコミュニケーション障害が起因する
・奨学金は貧乏になる
・普通の人が風俗に入るようになって、貧困女性のセーフティネットがなくなりつつある
・ブラック企業のターゲットは、役に立たない現実感のないポジティブな若者
・貧困家庭の真面目な子が資格に走るイメージがある。
・能力がない人が長時間労働によって帳尻を合わせている
・ブラックの最先端は居酒屋
奨学金で子供まで貧乏にさせる親
最近よく話題にあがる奨学金です。2004年に政府によって始まった有利子の貸付け。奨学金を子供に背負合わせているのは、今の40~50代の親世代です。
彼らは自分が貧乏な上に子供まで貧乏にさせてしまいます。社会に出たこともない学生に3~800万円という莫大な借金を背負わせようとします。子供が社会を出てすべて返済するころには30歳も過ぎてしまいます。
この親世代が怖いと思うのは、子供を大学に行かせることによって奨学金をペイできると勘違いしていることです。
良い大学に入学し、優良企業に入るような学生ならペイできますが、Fラン大学を卒業するような若者は、まず間違いなく返済に苦しむことになります。
現実が見えていない親ほど痛いものはありません。
「理系で研究者や技術者を目指すならまだしも、本当に将来に必要になるかどうかもわからない教育を受けて、履歴書に書く「○○大学卒業」という一行を買うために、一八歳の子に数百万円の借金を押しつける。」
夢を語るブラック企業とポジティブ学生
ブラック企業で有名になったワタミの渡邉美樹氏に対しても痛烈に批判しています。
本当のことを誰も言わないで、ポジティブな言葉で明るい未来を見せて、Fラン大学も学生が「お客さま」だからポエムで煽るわけでしょう
Fラン大学あたりは現実を学生に伝えないでブラック企業やブラック介護施設にどんどん人材を送り出している。国の事情で奨学金を借りて、お金を奪われて、就職すればサービス残業で賃金を奪われて、人生をつぶしつつある。
たしかに現実をしっかり見れていない若者は多いように感じます。
自分でしっかりとした軸を持たない人たちは、力強い発言者のに流れてしまう傾向があります。厳しい言葉で自分を育ててくれると勘違いするからです。
よく話題に上がるのが飲食店や介護事業ですが、IT業界にも似たようなところがあります。
成長できる分野、専門性が身に着く、世界のどこにいても戦っていける、こういう言葉はよく聞きますが、いざ入社してみると将来性がない仕事、単純労働、残業代も出ないということはよくあります。
こわいなと思うのが、経営者自身は本気で技術者が自分の会社で働ければ将来のためになると勘違いしていることです。ある意味天然ですが、意外とたくさんいます。
IT業界の社長といってもやっている事はただの人材派遣で、自分の社員がどういう仕事をしているのか、どういうキャリアップを築いているのか理解していないからです。とりあえず、派遣先のために遅くまで仕事をすれば、自社のためにたくさんお金が稼げて、なおかつ社員も成長できると思っています。
自分で自分の会社を理解していない経営者こそ怖いものはありません。
政府ができることは何もない
対談した2人は、政府がもっと貧困問題に対して理解した上で踏み込むべき、もっと違う対策を取っていればここまで悪くはなかったと主張しています。
私の貧困に対する意見は、貧困はしょうがないものだと考えています。むしろ政府にはこれ以上なにもしてほしくないと思っています。
なぜかというと歴史上、貧困問題がなかったことは一度もないからです。景気の良い悪いによって絶対数は上下しますが、どこの世界にいっても必ずあることです。
現代社会において風俗で働くのは最終的には本人が生きていくために選択していることだし、売春婦は世界最古の仕事で、歴史上存在しなかったことはありません。
不本意な形でこういう仕事に就くのはかわいそうだと思いますが、だからといってお金を使って対策したら解決するのかというと、それほど単純な話ではありません。
バブルが起きれば不景気も必ず起きるように、自然の生理現象と同じです。
逆にいうと高度成長期を迎えて、国民全員が急速に豊かになった時代の方が長い歴史の中で特殊な時期です。いま日本が辛い時期を過ごしているのは、30年前に良い時期を謳歌しすぎたからです。
そもそも国民全員が適度に平等というのは、不可能な話で平等を求めれば求めるほど、社会主義色が強くなります。社会主義は社会から競争を排除し、うまくいかないということはすでに証明されています。
政府が何か対策すればその影で今度は別の問題がおきます。それを対策するためにはまたお金が必要です。
貧困の最大の原因は、政府にお金がないことです。1970年に3.5兆円だった社会保障費が2015年には116兆円になりました。政府が何かしようとすればするほどお金は必要になります。政府がお金を必要とすればするほど、わたしたちの収入や消費から税金として吸い上げられます。
私たちのお金が吸い上げられると、下にいる層から最低限の生活が苦しくなり、順に貧困に陥っていきます。お金があるうちは最下層を救済できますが、お金がなくなるにつれ救済することは不可能になります。
対談者の一人鈴木大介氏は、近い将来に世代間格差で暴動が起きるといいます。今日本で暴動が起きないのは、日本は銃規制が厳しいからだと。この意見についてもわたしは反対です。今後も10数年以上、日本で暴動は起きないだろうなと思います。
日本が貧乏になった、団塊世代よりも貧乏になったからといっても、それでも他国に比べてまだまだ裕福だからです。アルバイトだけの収入でも、世界の上位4%の収入にランクインするほど豊かです。
いくら若者が貧乏でお金がないとはいっても、皆2年単位でスマホを買い換えるし、誰もが図書館や公園などの公共施設を無料で使用できます。ほとんどの人が読み書きができて、仕事をしようと思えば最低限の生活ができる仕事にはありつけます。
お金がないといっても、それは日本にいる周囲と比較した結果で、世界的には裕福ということには変わりません。
貧乏だと言っているのは、周りの目を気にして安い賃貸に住めない、地方でクルマは必需品だと言い、人付き合いで割高な外食をしている人はたくさんいます。日本は外食費は高いですが、その割にレストランの数は非常に多いです。
途上国に行けばいるような、本当に生活できないほどの貧乏というのは非常に少ないです。彼らが暴動を起こすというのは考えにくいです。
このまま順調に貧困が広がって社会保障が縮小すると、元気な若者たちが高齢者の資産を本気で奪いにくる、医療が破綻して認知症高齢者がゾロゾロ線路を歩いている、日常的に路上に死体が転がる、巨大な姥捨て山ができる、周辺に介護職中年童貞のスラムができる、女性たちが強い国の男たちに売春して日本人の夫はヒモになる
こうした将来はないとは言えないですが、あったとしてもまだまだ先の話です。