セミリタイアしたサラリーマン投資家
2017年夏にセミリタイアし、海外と日本のデュアルライフを目指します

量的緩和を提唱したクルーグマンがアベノミクスの失敗を認める?

 

ポール・クルーグマン、浜田宏一
2020年 世界経済の勝者と敗者

 

この著書は、ノーベル経済学賞の受賞者の「クルーグマン」氏と安倍政権の経済ブレーン「浜田宏一」氏がアメリカ、日本、ヨーロッパ、中国の4カ国について論じた本です。

 

どちらもリフレ派の経済学者です。

 

クルーグマンは『流動性の罠』という論文を書き、浜田宏一氏は内閣官房参与として、政権に異次元緩和というリフレ策を提唱しています。

 

しかし最近になってクルーグマン氏は、異次元緩和に対して否定的な発言をしています。


アベノミクスを象徴する大胆な異次元緩和の発想元となっているクルーグマン教授が、この政策の失敗を認めたことになると、これは日本銀行にとっては取り返しのつかない大きな事故となります。

 

日銀も量的緩和について懐疑的になりつつも、もはや後戻りが効かない所まできてしまったという感覚ではないでしょうか。

 

 

そもそも流動性の罠とは

 

従来の伝統的な中央銀行の金利政策に代わる質的・量的金融緩和とは、金利がゼロになるとこれ以上下げられないから、代わりにマネー供給量を増やすという政策です。

 

単純にマネー供給量を倍に増やすと、物価の価値が倍になるためお金の価値が半分になります。そうするとインフレを発生させることができます。

 

人々は通貨の価値よりも物の価値の方があがるため、貯金するお金が減って購買力が上がり景気を刺激するという狙いがあります。

 

しかし現在のような大規模な量的緩和ではありませんが、中央銀行は過去にベースマネーを増やしています。そのときは、いくらベースマネーを増やしてもマネーサプライが拡大しませんでした。

 

クルーグマンはこれを流動性の罠だと述べています。流動性の罠に陥ると、たとえ銀行が健全でもマネーサプライが拡大しないと述べています。

 

さらにクルーグマンは流動性の罠の根本的な原因は「信用」にあると言います。なぜなら人々がモノを買った方がいいのか、それとも貯金した方がいいのかは、将来の潜在的な予想で判断するからです。いかに将来の約束が信用できるかが重要だという事を示唆しています。

 

人々の期待を形成するためにインフレターゲットを設定します、インフレターゲットを持つことによって国民全員にインフレを信じこませる効果があります。

 

アベノミクスは、浜田宏一氏を内閣官房参与に就任していますが、この浜田宏一氏はクルーグマンの流動性の罠に感銘を受けています。

 

以上を考えればアベノミクスが実行したい政策も納得できます。安倍政権と日本銀行は何度も明確にインフレターゲットについて言及しています。

 

2年でインフレ2%達成するという目標は早々に裏切られましたが、2%という数値自体はずっと変わっていません。

 

この政策のキモは人々に物価があがると信じ込ませることです。とするとインフレ期待を持たせるためにできることは、「インフレターゲットを達成するためにあらゆることをする」、「金利はあげない」と市場に発言するだけです。

 

クルーグマン氏はインフレをやる期間は15年程度が望ましい、またこの目標はあくまで目標で本当に正しいかは研究が必要だと述べています。

 

つまり、本当に有効かどうかはわかりませんが、自己判断でお願いしますということです。まさに机上の空論が好きな学者らしい意見です。

 

日銀が2013年になってインフレターゲットを採用したワケ

 

この論文が発表されたのは98年のころです。この政策を実行するようになったのは2013年と比較的最近です。

 

どうして日本はインフレターゲットを今まで採用してこなかったかというと、日銀は物価の安定を理念として掲げています。

 

インフレターゲットを持つという事は物価の安定に反する行為です。もちろん物価安定に向けて通貨量の調整は何度も行っています。

 

過去にインフレターゲットをデフレ脱却に利用した例はなく、効果や波及経緯など理論的には何もわかっていません。

 

成功するかどうかわからないものに対して、日銀が持つ理念に反してまでやるかと言われたら当然答えはノーです。

 

前白川総裁が緩和策に反対していた理由がわかりました。

 

安倍首相は白川退任後に、量的金融緩和に積極的な黒田東彦や岩田規久男を総裁や副総裁に採用しました。

 

日銀とクルーグマン氏の対立

 

2000年ころ、日本銀行がゼロ金利政策の解除に傾いたことに対し、クルーグマンなどの学界サイドは厳しく批判していました。

 

クルーグマンは1990年代、2000年代の日本銀行の政策判断について「間違いだった」と指摘しました。

 

すでに債務が積みあがっている日本は長期間の財政政策は有効ではないと述べた上で、財政政策が答えでないのであれば何があるのか、金融政策という答えがあると答えています。

 

日本が長期不況から抜け出すための解答は極めて簡単であり、お金を大量に刷ることで需要を喚起し、期待を作成することが経済を拡大する唯一の方法であると述べています。

 

クルーグマンは著書『危機突破の経済学』で「日本の場合、大型の財政政策は難しく、金融政策としてのインフレ・ターゲットを導入するべきである」と指摘しています。

 

クルーグマン氏が間違いを認める?

 

しかし最近になってクルーグマンは自分の考えが間違いだったという旨の発言をしています。

 

IMF主催の会合で講演した際に、
「無責任であることを信頼できる形で約束すれば、後は自動的に問題を解決できるという考え方は楽観的すぎる。そうなることはない」と話したそうです。

 

つまり異次元緩和と呼ばれた大胆な金融緩和を提唱したクルーグマンが、自らその考え方が誤りであることを認めたことになります。

 

これは日銀にとっては驚くべき出来事です。アベノミクスの背景にあるリフレ派の考え方をその中心人物が疑問視しています。

 

クルーグマンの心変わりは、日銀の異次元緩和による物価への影響が出なかったことや、FRBのQE(大規模緩和策)も物価の上昇を促すことはなかったことで、壮大な社会実験の結果が出なかったことを認めた結果と捉えることができます。

 

発言の真意が本当であれば、長年続いた日本銀行とクルーグマンを含めた学者たちとの論争に終止符がついたことになります。

 

冷静に考えればわかりそうなことですが、不安定な市場にインフレ期待を持たせるために、「あらゆることをする」と発言しただけで問題を解決できる程単純ではありません。

 

これだけで景気後退から立ち直ることができるのであれば、不況に苦しむ国はなくなりそうなものですが。

 

ジムロジャーズ氏は、
「自国通貨の価値を下げると短期的な効果が得られるので、政治家は即効薬としてこの政策を使いたがりますが、歴史上うまくいった例はない」と述べています。

 

クルーグマンの政策が市場に通用しなければ、歴史がまた正しかったことになります。