東日本大震災から5年以上が経過しましたが、「原発ゼロ」というお花畑的な思考は相手にされなくなってきました。原発がなくてもいいと思う人の意見は、明らかに少数派になりつつあります。
原発再稼動によるメリット
事故以前は全国で原子力発電所が50基稼動していた原発がすべて停止しましたが、現在は原子力委員会の審査は当初の予定より遅れながらも着々と進んでいます。
2016年3月には、九州電力の川内原子力発電所の1号機、2号機が再稼動、四国電力の伊方原子力発電所が3号機が再稼動、関西電力の高浜原発の3号機と4号機が合格済みです。
原子力再稼動によるメリットはたくさんあります。
・原子力再稼動により地域周辺の経済効果が上がる
・安定した電力を供給できる
・単価の安い電力供給で企業の生産コストが下がる
・資源輸入を下げて貿易黒字を押し上げる
・地球温暖化の原因になる二酸化炭素の排出量を減らす
石炭や石油による電力発電よりも、政府の国策により原子力発電を優先した理由は明確になります。メリットとデメリットは当然ありますが、それを適切に考慮した結果が、事故前の電源構成比になっています。
再稼動を安易に批判する人たちは、本当に政治家のウラ金や地方の市町村などの献金目的でここまで原発が普及したと思っているのでしょうか。
原発を推進するようになったのはオイルショックの経験から
政府が国策で原発を推進したのは、オイルショックの教訓からです。
第一次オイルショックは、1973年10月に第四次中東戦争が勃発したことによって発生しました。これにより石油輸出機構(OPEC)の一部の加盟国が、原油価格を1バレル3ドルから、5ドルへ70%引き上げることを発表しました。12月には、11ドルへとさらに引き上げることを決定しました。
そうなると当然、エネルギー弦を中東の石油に依存してきた先進国の経済を脅かします。当時の日本は地価急騰で急速なインフレが発生していましたが、石油危機による資源価格の高騰でさらに深刻な状況に陥ります。
1974年には消費者物価指数で23%上昇しています。インフレ抑制のために、日銀の公定歩合の引き上げが行われ、企業の設備投資などを抑制する政策がとられたことにより、戦後初のマイナス「1.2%」を記録しています。
トイレットペーパーや洗剤など、原油価格と直接関係ない物資の買い占めまで起きています。他にもデパートのエスカレータの運転中止や、ガソリンスタンドの日曜休業、最終列車の繰り上げ、プロ野球の開始時間の繰上げ、テレビの深夜放送の休止など、いかに当時が混乱していたかがわかります。
次の第二次オイルショックは、1979年にイラン革命によって石油生産が中断し、イランから大量の原油を輸入していたことにより発生します。78年末にOPECが「原油価格を4段階に分けて計14.5%値上げする」ことを決定し、原油価格が再び高騰しました。
この2つのオイルショックにより、日本の経済が中東の石油に極端に依存していることが明白になりました。この失敗経験から、多少高くても中東以外のロシアなどの産出国からの輸入するなどのリスク分散、原子力開発などの石油に依存しないエネルギー活用の模索が本格的にされるようになりました。
つまり、電力構成は環境問題や電力単価を最優先するのではなく、何か起きた時に国家のリスクヘッジを主に考える必要があります。
成人になってからこの2つの危機を経験した人は、63歳以上の高齢者だけです。ほどんどの日本国民の頭にはこの時のオイルショックの記憶はありません。
日本とヨーロッパは電力事情が違う
日本の電力構成を考える上でヨーロッパを例に出す人は多いですが、ヨーロッパと日本とでは電力事情が根本的に違います。
ヨーロッパは大陸続きになっているので、大陸中に天然ガスのパイプラインや電力網がはりめぐらされているので、他国間で電力を融通しあうことができます。
日本は周りを海で囲まれた島国で、資源がまったくない国です。中東から原油を送るにしても、タンカーに原油を積んで何ヶ月もかけて運搬し、それを精油してはじめて活用できます。原発を停止するということは、中東やロシアに過度に依存することになります。
東日本大震災が発生して日本の原発がすべて停止し、たまたま海外でドイツ人の老夫婦とレストランの席が一緒になったときに、世界中の原発はすべて停止するべきだと同情して言われましたが、そうは思わないといったら白い眼で見られました。
ドイツと日本では電力事情は大きく異なります。ドイツも原発を随時停止していますが、結局は足りない分をフランスの原発から電気を買っているので、そう変わらないと思いますが。
世界中で原発が止まる悲劇
世の中キレイごとだけでは回らないことがたくさんあります。
例えば中国やインドなどの途上国も含めてすべての国が原発を停止したとします。2050年には中国市場規模は日本より13倍大きくなると予測されています。
現実的にそうなったときに、中国も資源を他国から大量に購入していた場合、日本に資源を売ってくれる国はどれだけあるでしょうか。いくらかは買えるかもしれませんが、資源価格は今と比べられないほど高価になっています。
原子力発電所の技術者もいなくなり、電力だけで生活コストを圧迫するようになってから、原子力を再稼動しようでは遅すぎます。